令和元年改正独占禁止法の概略2020.11.16

令和元年に改正された独占禁止法(令和元年6月26日;法律第45号)について、その施行が令和2年12月25日と目前に迫ってまいりました。

そこで、本稿では、令和元年独占禁止法の改正概要について解説したいと思います。

1 主な改正内容

今回改正された主な内容として、①課徴金制度の見直し、②調査協力減算制度、③判別制度の新設が挙げられます。

①課徴金制度とは、カルテルや談合等の違反行為を防止するため、違反事業者等に対して課される金銭的不利益のことです。

改正前は画一的、一律的な制度設計となっていましたが、今回の見直しによって、より実態に即した課徴金を課すことができるようになったといわれています。

また、②調査協力減算制度は、違反事業者等(減免申請者)が公正取引員会への調査協力の度合いに応じて課徴金を減算する制度です。

違反を申告した順位に応じて課徴金を減免する制度(リーニエンシー制度)に加え、順位を確保した申請者の法的安定性を図るために導入されました。

この制度の導入により、申告による違反行為からの離脱へのインセンティブと、申告後の調査協力に対するインセンティブとが明確に区別されるようになりました。

さらに、③判別制度とは、いわゆる日本版の秘匿特権であり、一定の要件を満たす事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信内容を記録した物件について、公正取引委員会の審査官が、その内容に接することなく事業者に還付する取扱いのことをいいます。

本制度は、②の調査協力減算制度が導入されたことに伴って、事業者が外部弁護士に相談するニーズが高まるとの想定のものと導入されたものです。

以下では、不当な取引制限を念頭に、主に①と②を軸に解説を加えます。

2 改正後の課徴金制度

⑴ 改正後の課徴金算定

改正前・改正後の課徴金算定基礎は、次のとおりです。

【改正前】
対象商品・役務の売上額×基本10% − 課徴金減免制度による減免
【改正後】
(対象商品・役務の売上額+密接関連業務の対価)×10%+財産上の利益(談合金等)
− 課徴金減免制度による減免(調査協力減算制度による減算率の付加あり)
※公正取引委員会『令和元年独占禁止法改正による新制度について(課徴金制度改正編)』参照

また、算定基礎の他に注目すべき点として、次の項目が挙げられます。

・算定期間の伸長 実行期間を調査開始日から最長10年前まで遡及して計算する。
・違反主体の追加 グループ企業(完全子会社等)の売上額等を算定基礎に組み込む。
・算定基礎の追加 密接関連業務の対価(例えば、入札談合において受注を譲る見返りに下請けに入った業者への対価など)を算定基礎に組み込む。
・談合金等の追加 売上額以外から生じる財産上の利益を算定基礎に組み込む。

以上の項目は内容が難しいため、
・違反主体が、㋐違反事業者に加えて、㋑違反を行っていないグループ企業(完全子会社等)が追記されたこと
・算定範囲が、㋒売上額のみならず、㋓密接関連業務の対価、㋔談合金等まで拡大されたこと
とりあえずは、以上の㋐~㋔を押さえておけば足りるでしょう。

⑵ 調査協力減算制度

この制度は、申請順位に応じた減免率に、事業者の実態解明への協力度合いに応じた減算率を付加するものであり、具体的な協力内容と減算率は、事業者と公正取引委員会との協議、合意によって決定されます。

調査協力減算制度の導入によって適用される減免率は、次のとおりです。

調査
開始
申請順位 申請順位に応じた減免率 調査協力減算 適用される減免率
1位 全額免除 全額免除
2位 20% 最大40% 最大60%
3~5位 10% 最大50%
6位以下 5% 最大45%
最大3社 10% 最大20% 最大30%
上記以下 5% 最大25%

 

※公正取引委員会『調査協力減算制度について』参照

この制度の導入により、違反行為から離脱させるインセンティブはより高まるものと予想されています。

3 おわりに

以上、令和元年改正独占禁止法を概観してまいりました。

そもそも独占禁止法は条文やガイドラインが非常に難しく、さらに判例に解釈が委ねられている部分も多いので、とっつきにくい分野といえます。

自社の取引が独占禁止法のどこかに引っかかっているのではないか、という漠然とした不安にかられている方も多いと思います。

独占禁止法に一度違反をしてしまうと非常に大きな損失になりかねず、取り返しのつかない状況にもなりかねませんので、気になった方はぜひ一度ご相談ください。

令和2年11月16日

弁護士法人東海総合
弁護士 小山 洋史

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