2021年会社法改正2021.8.20

会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が、2019年12月4日に成立し、2021年3月1日に施行されました(ただし、株主総会資料の電子提供制度等は2022年中に施行予定となっています。)。

そこで、本稿において改正内容を概観してみたいと思います。

 

1 会社法改正の趣旨・目的

今回の会社法改正の趣旨・目的は、株主総会の運営と取締役の職務執行について、より一層の適正化を図る点にあります。

これにより日本企業のコーポ―レート・ガバナンス(企業統治)がさらに向上し、日本企業の競争力や投資家からの信頼が高まることが期待されています。

 

2 株主総会資料の電子提供制度(2022年施行予定)

株主総会資料(参考書類、議決権行使書面、計算書類、事業報告など)を自社のウェブサイト等に掲載し、その旨を株主に通知することで資料提供したものとすることが認められました。

従来は紙ベースが原則とされており、かつ、株主宛に提供しなければなりませんでした。

今回の改正によって、会社としては、株主総会資料の印刷や郵送のための費用や時間を削減することができますし、郵送によるタイムラグもないので、株主は早期に資料を受け取ることができ、十分な検討時間を確保することが可能となります。

 

3 株主提案権の濫用を制限するための措置(改正305条4項)

近年、株主総会において一人の株主が大量の議案を提案したり、議案と関係のない提案をしたりする等が問題視されており、会社にとって大きな負担となっていました。

このような問題(いわゆる株主提案権の濫用)に対応するため、取締役会設置会社において、同一の株主総会に提案することができる議案の数を10個までに制限するという上限規定が定められました。

 

4 取締役の報酬等に関する規律の見直し(改正361条7項)

従来の会社法では、取締役の報酬額について、取締役全員の報酬額を合計した上限額を定めることで足りるとされており、取締役個別の報酬額は取締役会に一任されていました。

しかし、このような取扱いは非常に不透明であるとの批判が強く、今回の改正によって見直しが図られました。

見直しの結果、取締役個別の報酬額の開示までは求められませんでしたが、社外取締役を置かなければならない監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)や監査等委員会設置会社において、各取締役の報酬額に関する決定方針を取締役会で定めることが義務付けられました。

ここにいう「決定方針」として決めなければならない事項は、改正施行規則98条の5に定められており、取締役個別の報酬等についての額またはその算定方法の決定に関する方針のほか、業績連動報酬や非金銭報酬の額またはその算定方法の決定に関する方針、報酬の種類ごとの割合の決定に関する方針などが含まれます。

 

5 補償契約・役員等賠償責任保険契約に関する規律(改正430条の2)

取締役の職務執行に関する損害賠償に備えた「役員等賠償責任保険契約」(D&O保険)が一般的となりました。しかし、その導入の決定については明確な規定がなく、整備が求められていました。

今回の改正により「会社補償」の制度が導入され、対象となる費用や損害、補償の範囲などが明文化されました。この内容を決めるには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないとされています。

 

6 社債管理補助者制度の新設(改正702条)

少し難しいですが、社債管理補助者の制度が新たに導入されました。

会社法では、募集社債を発行する場合に、社債管理者の設置を義務付けることが原則とされています。しかし、社債管理者の権限は広く、その分責任も重く、コストが高くなることから、例外を利用して社債管理者非設置債とする会社が多いとされていました。

このような状況を受け、社債管理者よりも権限を狭くし、より利用しやすい制度を作ろうということで、新たに「社債管理補助者」に関する規定が設けられました。

 

7 まとめ

以上の改正は主に上場企業を対象としたものではありますが、IPOを目指している会社にとっては見逃せない内容となっています。

法改正に関する情報にタイムリーに対応するには、不断の努力が必要となります。今回の会社法改正に限らず、改正に伴う法務対応についてご相談がございましたら、お気軽にご相談ください。

令和3年8月20日

弁護士法人東海総合

弁護士 小山 洋史

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